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復興事業近況
大船鉾考証 作事三者
皆様お待たせいたしました。今回は与力衆作事三者についてやや詳しくみてゆこうと思います。
①大工方
大工方とは、大船鉾の舞台(ご神体や囃子方がのるところ)と屋根と艫屋形、鉾桟橋の作事を担う技術者集団です。そして作事三者のなかで最も上役になります。これは本来鉾の「衣裳」に値する塗り物や彫刻・彫金類を扱うためです。いわば本来旦那衆自らすべき作事を肩代わりするということです。幕類衣裳や房などは町内旦那衆によって鉾建て最終日に蔵2階から運び出され、旦那衆自ら鉾に据え付けます。これは「町内の大宝中の大宝は自分たち以外に触れさせない」という昔堅気の由縁です。蔵が非公開というのもまた同じ理由です。町内ゆかりであったり、洛中で評判のある絵師に下絵を描かせ、当代の名工に大金をはたいて作らせた彫刻・彫金・塗り物のたぐいも、もちろんこの範疇に入ります。が、大きな鉾の、しかも特殊な揺れ構造をもつ屋根などは到底素人作事では間に合いません。そこで宮大工を中心とした「大工方」集団にこれを依頼するのです。これがため、舞台より下の構造には一切触れません。欄縁のみは旦那衆自らの作事が可能なため、大工方は触りません。このように最も旦那衆に近い作事を請け負う為、吉符入り式や各会合でも上席になります。巡行時、棟梁は鉾の後ろを歩き、鉾本体の「検分」を行います。鉾におかしな歪みがないか、無理な力がかかってないか、脱落部品はないか…。これを後ろから督視します。それがため、車方棟梁に次ぐ「急ブレーキ発動」の権限を持ちます。その他、大工方2~3名が鉾に乗り込みます。これは他の鉾の「屋根方」にあたる役目で、舞台より上の構造物(自分たちのセクションの構造物)に異常なきか、また異常ある場合は応急処置役として活躍します。総勢は8名ほどの集団です。
②手伝い方
手伝い方とは、鉾の基礎構造部分を受け持つ技術者集団です。作事三者のなかで最も重要であり、鉾本体の肝を司ることになります。基礎構造部分とは車軸・石持・基礎櫓部・船体部をさします。細かいことを言いますと、車軸と車輪の間にある「潤滑油(たね油)」も手伝い方の範疇です。毎年鉾建ての全てに渡って仕事があるため、いやおうなく鉾の全てを知ることとなり、旦那衆から最も頼られる存在です。逆にこの部分の作事が歪んでいたりすると、これを基礎にする屋根も艫も車輪も、全て歪みます。町内と綿密な連携をとり部材のねじれや変形、欠損、耐久力、部材新調時期など多岐にわたり相談にのってもらうこととなります。さらに四条町秘伝の「縄がらみ」を永代受け継いでもらうことになります。さらにさらに埒組、提灯建ても請け負い大忙しです。手伝い方棟梁は巡行時、曳き綱の中央やや先あたりを歩き(お供衆の10メートル後ろあたり)、鉾の進行を司ります。(後述※)手伝い方の中から5名が音頭取になります。総勢10名ほどの集団ですので、残る4名は純粋な手伝い方として辻回しや曳き手に加わったりします。現在ヨドバシに展示中の大船鉾は、舞台と車輪と轄(くさび)を除きすべて手伝い方の範囲です。
※:山鉾巡行は神事であります為、神事励行場所がいくつかあります。また巡行列のため前の山鉾にあわせて進行する必要があります。(必ずしもピッタリ付いてゆくのではなく、場合によっては少しあけて止めたりもします)これらの事はすべて町内お供衆鉾進行係の扇によって合図されます。この扇は鉾はおろか「四条町の行列」そのものを采配します。手伝い方棟梁はこの合図をよく見て、「音頭取」(すなわち自分の部下)に合図を送ります。その合図に従った音頭取の「エンヤラヨイ」で鉾は前へ動くのです。ただ辻回しでは、お供衆は全員相引に腰掛けこれを検分しますので、辻に入ってから向きを変えるまで手伝い方棟梁に指揮権を委ねます。
③車方
車方は鉾の車と、進行時の方向調整、辻回しを請け負います。今や舗装されたキレイな道ですが、昔は土を踏み固めた地道でありました為その作事は泥だらけになって大変だったことが伺われます。鉾建て最終日に車輪をはめ、轄をして、曳き初めの方向修正を担います。巡行時はもっぱら方向修正にかかります。鉾前を後ろ向きに指南役が歩き指示を出します。前両輪には「カケヤ」(掛矢:いわゆる大木槌の名称だがこれに見立ててか或いはかつて木槌を代用したか)という車止めを引きずる2名、方向修正のかぶらてこを前輪大外2名、中1名、残りは追い梃子を持って四輪に附きます。それに加え「辻回し」という大きな役目があります。竹or樫枝or柳枝を敷いて鉾をまわすのですが、これも簡単ではありません。まず前の両輪がきっちり竹にのらなければなりません。上手な車方は鉾が遠くにあっても目算で竹を敷き、きっちりのせますが、自信のない車方は鉾を近くまでもってきて車輪の目の前で竹を並べます。また鉾をまわすとき後輪のどちらを軸にしてまわすかによってまわる角度が異なります。このように辻回しの実務を執るのは車方集団ですが、儀礼的進行権は手伝い方頭領にあるため、動かす(まわす)準備ができたら手伝い方棟梁に「出来ました」と通告します。それを聞いた手伝い方棟梁は扇を振り上げ、音頭取の「ヨウイトセ」で鉾がまわります。ただし、あまりに引っ張りすぎて竹から車輪が脱落すると後が大変なため、「もうええ!」という号令は車方棟梁が行います。総勢10名、方向調整を請け負うため「急ブレーキ」の権限を1番に有します。但し、鉾を進め動かす権限を有しませんため、「動いた鉾を必死に方向調整する」というのが本文です。
大船鉾では着々とこれら作事方の組織作りに励んでいます。各方面の暖かなご支援を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。