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大船鉾のお囃子3
大船鉾考証 御神体人形
平成23年度の京都府の助成事業による補助金を受け、御神体装束として神功皇后様の狩衣と安曇磯良様の厚板を新調し、本年のお祭りで目出度くご披露させていただくこととなりました。そこで大船鉾の御神体人形について少し考察してみたいと思います。
祗園御霊会細記には「還御の体をうつす、人形各七日船と同じ」とあります。また「増補」によると、「人形 神功皇后 当町人形天明大火に焼失せし也。然共此皇后の御面計(ばかり)は残りしなり。其余は何れも新作也。即京都四条人形師斎藤新十郎作也・・・・」とあり、その後には各御神体の装束についての記述が続いています。つまり大船鉾には前祭の船鉾と同じく「神功皇后様」「安曇磯良様」「住吉明神様」「鹿島明神様」の、四体の御神体が乗っておられました。では、現在残存しているものはどうかと申しますと、神功皇后様の、天明の大火でも焼失を免れた御神面と、御神体人形ならびに装束一式のみとなっています。この御神体人形と装束一式について、禁門の変の被災を免れたものかどうかという点については、比較的新しい年代の製作と思われることや、御神体を鉾本体にお乗せするための装置の痕跡が見当たらないことなど、今後の調査研究の成果を待つとしまして、現存しない他の三体の御神体については、これは近い将来必ず復元新調しなければならないものであります。増補の記述を見ますと「人形 神功皇后・・・面をかけかつら其上に天冠あり・・・」とあります。この面は能面の「小面」でしょうか、あるいはもう少し年齢の高い「曲見」のようにも見えますし、天冠を着けるということから品の高い「増女」かもしれません。あるいは、もしかしたら所謂「能面」ではないのかもしれません。いずれにしましても、幾度もの被災に見舞われながらも、四条町町中がわが命より大切に、と守り伝承されてきたものです。
ところで、他の三体については面をかけておられません。前祭の船鉾も同様のかたちとなっております。四体のうち神功皇后様だけが面をかけられるのにはどういった意味があるのでしょうか。その意味を考えるにあたって、祗園祭における他の山鉾の御神体人形はどのようになっているのか見てみましょう。祗園祭の山鉾には稚児人形や動物の人形を除くと、四十二体のほぼ等身大の御神体が乗っておられます。そのうち四体が仏像です。残る三十八体を男女別(神様そのものを含め)に見ますと男性三十三体・女性五体となっています。で、その三十八体で面をかけておられるのは船鉾・大船鉾・占出山にそれぞれ乗っておられる神功皇后様三体、鈴鹿山の瀬織津姫様、そして浄妙山の筒井浄妙様の五体であります。女性は四体/五体中であり、男性は一体/三十三体中となります。つまり圧倒的に女性が面をかけている割合が高いことが判ります。そのあたりに何やら大きな意味があるように思われますが、どうでしょうか。祗園祭の山の創生期には狂言「鬮罪人」に見られるように、人間が山の舞台の上で出し物を演じたとされています。祗園祭は女人禁制の祭とされていますので(これに関する議論はさて置くとして)、考えられるのは男性が女性役を演じる際に面をかけたのではないか、ということです。その流れから、その後人形となってからも女性のご神体人形は面をかけておられるではないでしょうか。事実、御神体人形は圧倒的に男性が多く、例えば郭巨山では、同様の趣向である大津祭の郭巨山には郭巨の妻が乗っていますが京都の郭巨山には乗っておられません。さらに驚くべきは、岩戸山の天照大神は男性像となっています。 それでは、例外となる、面をかけておられない女性神の葛城神(役行者山)と、面をかけておられる筒井浄妙様(浄妙山)はどう考えればいいのでしょうか。葛城神は、一説には一言主神と同一神であるという説もありますし、生まれついての神様(おかしな言い方ですが、神功皇后様や瀬織津姫様はあくまでも人間)で性別を超越した存在と考えられなくもありません。また筒井浄妙様は、皆様ご承知のように人型の自然木をご神体にされておりますので、丸彫りの頭を付けるわけにはいかず、やむを得ず面をかけられている、と考えるのが自然だと思います。
そうしたことから考えますと、今後復元しなければならない大船鉾の三体の御神体は、当然丸彫りの頭を付けた人形と云う事になるのでしょう。かつては多くの仏師の手によって彫られた御神体の頭ですが、大船鉾の御神体はどなたの手によって復元するのでしょうか。これは学識経験者で構成された委員会の中でも大きなテーマとなることでしょう。いずれにしても、祗園祭の殿を務める大船鉾の御神体に相応しい立派なご神体を復元しなければならない、というのが四条町町中の強い思いでございます。
左から 小面、曲見、増女(御神面は非公開です)
祇園御霊会細記(四条町大船鉾保存会員 個人蔵)